そう、この馬車はジュデットに赴くのだ。
 私、ギーツ・セーウェルトは父上――国王陛下の命により、ジュデットに対し抗議するために派遣された。

 先代の大聖女にして我が元婚約者、エルシア・アズリットが国法を破りジュデットにその身を置いていることの報せを受けて――。



 つい数日前。配下の一人が我が城に帰還した。
 傷は負っていないが、大層急いで戻ったのかぼろぼろの姿で報告を上げた兵士の話を受け、私は陛下に謁見を申し込んだ。

「陛下、ジュデットに潜入させていた私の配下が帰還いたしました。その御報告を」
「申せ」

 目の前の玉座に座るのは、我がセーウェルト王国の国王ライソン・セーウェルト。我が父ながら、その身体は樽のように肥え太っており見苦しい。
 私の金の髪に青い瞳は父から受け継いだものだが、彼の血を引いているという実感はあまりない。だがもしかすると、将来この男の様に堕落した姿になるのかと思うとぞっとする。