アカマダラオニビクモ――焦熱病の発生源となる生き物。それは本来はこの国に生息しない種族のはずだ。もっと南方の国の密林に生息する、指先程の大きさの赤い蜘蛛。

「奴らはそれを、他国から友好の証にと献上された衣装のいくつかに忍ばせたらしい。陛下が派手好きなのも知っていたのだろうな。服から蜘蛛の死骸もいくつか見つかった」
「適した気候の元でないとすぐに弱る種のようですからな。もう恐らく生きてはいないでしょう」

 悔しいことに、このような企てを図ったことがわかっても焦熱病の件に関して、セーウェルトに罪を問うことは難しい。だが今回、エルシアの働きにより殿下の御命を狙った多くの刺客を捕らえることが出来た。これは今後セーウェルト王国となんらかの交渉する際に大きな材料となる。 

 そのはずだったのだが……。

「我々も手を尽くしたのですが、力及ばず……」

 頭を下げる我輩に、殿下は額の皺をさらに深くする。