「それは、僕の口からは何とも。でもヨアヒムさんが亡くなって、彼の足はここから遠のいていましたから。エルシアさんを連れてきてから少しずつ顔を見せるようになって、僕も安心しているんです。どうもありがとう」
「いえそんな! まあ、ベッカーは悪い人じゃないですし。患者には優しいし、良い医者ですよ彼は」
「よかったらこれからも彼と仲良くしてあげてください。……あっ、それと」

 ローエンさんは何やら言いにくそうにしていたが、チラチラと陽炎草の鉢植えに目をやりながら、済まなそうに私に申し出た。

「実はエルシアさんにお願いがありまして。あまり人は尋ねない場所ですので大丈夫だと思っていたんですが、あの育ってきた鉢植えを見て陽炎草だと気付いた方が居まして、ある方が、聖女であるエルシアさんに是非お話を聞きたいと」
「はあ……私にですか?」
「ええ。もしお暇な時があったら、ここに書かれている人物の元をお尋ねになっていただけませんか?」

 作業机の上のコルクボードに貼り付けていた小さな紙を取り外すと、ローエンさんは祈るような面持ちで差し出す。それを見て私は苦笑しつつ快諾し、その紙片を受け取った。