「ねえ、どうして魔族と人間たちって、争い始めたんだっけ?」

 そんな問いを。
 殿下と楽しいひと時を過ごした翌朝、自室で私は青い団子髪(シニョン)の侍女ミーヤに尋ねていた。本日は片割れの赤髪、ダブルシニョンをこよなく愛す侍女メイアの方はまだ来ていない。

 現在、私たちはセーウェルトとジュデットを自由に行き来することが出来ない。
 でももし今後、争いの種が鎮まり、国交が樹立されれば、もしかしたら気軽にこの国に遊びに来ることが出来る日も来るのかも知れないとふと、そう思ったのだ。

 とはいえ、私が聖女である限り、それはそう簡単な事ではないのだろうけど。
 髪を整えてくれていたミーヤは、私の言葉を受けてうーんと考え込む。

「それが……ここジュデットでも、その核心に触れるような話は伝えられていないのです。いつの時代からか、突如人間たちが魔族を迫害し始めたのだとしか……」
「セーウェルトに伝わる話だと、魔族は邪なる神々の意志を受け継ぎ、全ての生きとし生けるものを破滅に導くために生まれた、なんて言われてるけどさ。セーウェルト人の私が言うのもなんだけど、それって魔族を貶めようと人間たちが勝手にでっち上げた嘘っぱちなんでしょう?」