ちなみに、聖女の力があるのにどうして薬が必要になるのかということだけれど、外傷は別として病気においては聖女の力では直せないものも多い。広範囲に広まったり、身体の深部に潜む病魔などには比較的効果が薄かったりする。

 それについては恐らく、想像力の問題かと私は思っている。見えている傷などの明確な一部分はイメージしやすいが、身体の奥の方や、広い範囲の全体像を浮かべるのはとても難しい。

 私も色々な生物標本などを見たりして勉強したけれど、それでもそういった病気を聖女の力で上手く治療できたことは少ない。なので、薬の備えは多いに越したことはないのである。

(荷物は多いけど、これが生命線になるから大事にしなきゃね……)

 そんなことを呟き、片手に簡易調合器具の入ったトランク、もう片方の手に籠を抱えて街道筋を闊歩し、時には森に分け入って草花を摘んでゆく。自然の静謐な空気を吸い込めば、心も癒されるし一石二鳥。

「よし……これくらいあれば十分でしょ!」

 その内籠も一杯になり、満足した私は一旦道から少し離れた木陰で休むことにした。