風が涼しく、少し肌寒い三月の終わり。

 私は、セーウェルト王国王都の南西部にあるレトグリットという大都市に向かって、徒歩で街道を進んでいた。見慣れない景色を眺めていると、今私は自由なのだという実感が強く湧いてくる。

 徒歩を選んだのはこれから旅をするにあたって、少しばかり寄り道をして薬草を補充したかったから。

「旅しながら、少しでもお金を稼ぐ方法探した方がいいもんね。なるべく人の多そうな場所に行かなきゃ。その方が仕事も多いだろうし……

 路銀はそれなりにはあるから、しばらくは食う寝る遊ぶだけの日々を送ってもいいのだけれど、使えば使うほどお金は減って、家に帰るまでの期間が短くなってしまう。それに、旅には急な出費が付き物だと聞く。

 私たち聖女は、医療に携わる者の嗜みとして薬学の心得も身に付けてある。だからしばらくは旅をしながら薬師として働くつもりなのだ。できればどこかの街で医者の手伝いでもしながら収入を得たい。少しでも長くこの旅を楽しむためにも……。