そうして部屋に戻った私はベッドの下をごそごそとまさぐった。
 そこから引っ張り出したのは、キャメル色の革製のトランク。

 私はトランクを開き、収めていた旅支度を確かめるとふふっと笑う。

「いつかこんな日をと夢見て、ちまちまと準備して来たのがここで役に立つとはねぇ……」

 思えば、私が王都から出たことはほとんどない。
 幼い頃からやれ貴族のマナーや修練だとずっとこの場所に縛られて生きてきた。
 衣食住の保証はあったけど、やはり、それなりの息苦しさはずっと感じていた。
 
 それが今や、明日から自由!
 私は今、久し振りに踊り出したいくらいにわくわくしている。
 明日が楽しみだなんて、何年振りのことなのだろう。
 どこに行こうが何を食べようが自由、そんな生活がこれからしばらくは待っているのだ。

 ベッドに潜り込んだ私は、色々な妄想を浮かべては消し、一人寝付けない夜を過ごす。

 そうしているとあっという間に日は昇り、翌日。寝不足の私は幾ばくかの路銀を持ち、生まれて始めてここ王都を発つ。さあこの旅で、私を何が待ち受けてくれているのだろう……そんな溢れんばかりの期待を胸に仕舞って。