「ああ……なんかぼんやりとは覚えてるんだけど。なんていう名前だったかな?」

 私は後頭部を掻きながらベッカーに尋ねる。あの宴の日に殿下とそんな話しをした記憶は朧げにあるのだけど、細かいところがはっきりとしていない。どうやら私は酒に呑まれるタイプの人間だったらしく、そんな私に呆れた様子でベッカーは教えてくれた。

「仕方のない奴め。これを機に自分の限界酒量くらいしっかりと弁えておけよ。王女様のお名前はミーミル様というんだ」
「ミーミル様ね、うん、覚えた。でも、なんとなく急を要するような感じではなかったと思うんだけど」

 殿下の話だと、ベッカーたちの面子を気にしている余裕もあったようだし、そこまで深刻では無いような口ぶりだったように思う。

 しかしベッカーは眉を下げ、やや声を小さくして言った。

「症状自体はな。まあその辺りは現地で話そう」
「うん……?」

 ひどくは無いが、彼らにも治せない特別な症状。
 それがどんなものかも分からず、私は目的地に着くまでしきりに首を傾げていた。