舞がポカンと口を開けて聡を見つめる。
なにか言わなきゃと思ったのは強い風が吹いたからだった。


「あ、あの私は……っ」


顔を真っ赤にしながら自分の気持を伝えようとしたとき、エレベーターが到着するチンッという間抜けな音が聞こえてきた。
ふたり同時に振り向くと、エレベーターのドアが開いてふたりの患者さんがおしゃべりしながら下りてきた。


「大田さん、今度まだ勝負してくださいよ」

「もちろんですよ。入院生活長いですからなぁ。充実させにゃならん」

「そうですねぇ。どうやら私も入院が長引きそうなんで、将棋の勝負が楽しみですよ。はっはっは」


50代くらいの男性患者と70代ちかくに見える大田さんと呼ばれた男性患者が、ほのぼのとした雰囲気でふたりの前を通り過ぎていく。

舞と聡は互いに目を見かわせて「……そろそろ行きましょうか」と、聡が落胆した声で言ったのだった。