女流棋士はクールな御曹司と婚約したい

「萩尾4段。タイトル戦の準備はできているかとお訊ねに」

「大光建設杯?」

「ええ、本戦までいきたいです」

「見里清麗か……勝算はある?」

「頑張ります」

桜花はクスリと微笑む。

「吉野さん、お茶でもしながら作戦を練らない?」

「いえ、私は1人で研鑽いたします」

「そう言わずに、一緒に研鑽したほうが」

萩尾と揉めているところに、翡翠の乗った黒塗りのベンツが、端島邸に横づけされた。

翡翠がベンツから素早く降り立ち、萩尾と桜花の様子に、険しい表情を浮かべた。

「桜花、迎えに来た」

桜花は翡翠の姿を確認すると、翡翠に駆け寄り、翡翠の腕にギュッとしがみついた。

怯えた桜花の震えが翡翠に伝わり、翡翠はスッと桜花の肩を抱き、車に乗せた。

「失礼」

翡翠は後部座席、桜花の隣に座わると運転手に「出せ」と告げた。

走り出した車中。