図書室で君と


校庭からは、次の種目を伝えるアナウンスが聞こえる。
私は今、居てはいけない場所にいる気がして、不安になった。

「やっぱり戻ったほうがいいんじゃ…」
またノリの悪い反応をしてしまった気がした。

「何で?こっちにいたほうが落ち着くじゃん」
先輩は私の反応を気にも留めてないようだ。

「なんで先輩は私に話しかけてくるんですか?」
これは以前も先輩に問いかけたことだった。
私は続ける。

「私と居てもつまらなくないですか?私真面目すぎるとか、ノリ悪いとかよく言われるし喋るのも上手くないし…先輩はたくさん友だちがいるから、そっちに居たほうが楽しいんじゃ…」

こんなこと、会って間もない先輩に言うのもおかしいと思ったけど、私の思いは止まらなかった。

「紅葉ちゃんは、十分おもしろいよ」
先輩に怪訝な顔をされると思っていたから、意外な回答で面食らってしまった。

「友だちとして親しく接してるつもりなのに、女の子と話してるとすぐ告白される。俺はそんな気ないのに、すぐ付き合う付き合わないの話になる。紅葉ちゃんと初めて会った日も告白されて断ったら揉めて…それで逃げてた」

「告白断ったら揉めるって、どんな状況ですか?」
純粋に気になる。

「絶対付き合えると思って告白したらしい。勘違いさせたのかも」

確かに先輩の行動見てたら、勘違いされちゃうのも分かる気がした。

「紅葉ちゃんに、距離近いって言われて、ああそうだったんだってやっと気づけたんだ。ありがとう」
先輩は頭を下げる。

「私は何も…」

「紅葉ちゃん、自分のこと面白くないって思ってるみたいだけど、俺といるとき普通に話せてるし、俺は一緒にいて心地いいよ。今回のことだって初めて人に話した」



先輩と一緒にいるときは素のままで話せている気がした。

「私、先輩ともっと仲良くなれますか?」
思ったことを考えずに口に出したのは初めてだった。

「じゃあ手始めに、梨久先輩って呼んでみて」

「り、く先輩…」
なんだか恥ずかしい。

「顔真っ赤にしてかわいい」
先輩は私の頭を撫でる。

「そ、そういうところです!すぐ告白されちゃうのは!!」

「ああ、そうだった」

「紅葉ちゃんとは少しずつ仲良くなりたいんだった」
先輩は小声で呟いた。

先輩が言っている意味がよく分からなかったけど、「ふふっ」と私が笑うと、先輩も笑った。



外は変わらず、体育祭で盛り上がっている。
先生対抗のリレーらしい。



「今日は体育祭だよ。行かなくていいの?」
先輩はわざとらしく言った。

よくないことかもしれないけど私の中で、いつの間にか体育祭に戻ることは重要ではなくなっていた。
先輩と一緒にいられる時間を楽しく過ごしたい。

「先輩こそ。先輩がいないと盛り上がらないんじゃないですか?」



「えっ?なんで?」

少し間が空いて
「今は紅葉ちゃんと話していたいんだけど」
と先輩は優しく微笑む。


先輩と一緒にいると欠けていたパズルのピースが1つ1つハマっていくように、新しい感情が私の一部になる。

人付き合いが苦手な私でも、先輩とはもっと仲良くなれるような、そんな気がした。



fin