図書室で君と


図書室に着き扉を開けようとする。
…が開かなかった。

そりゃそうか、図書室に勝手に入ってサボってる生徒がいたらよくないもんね。
先輩に会えると思っていたワクワクした気持ちが、急に残念な気持ちになった。

しょんぼりしながら、踵を返そうとしたとき

「ごめん、遅れた」

息を切らせた先輩が、鍵を持っている。
先輩は何の躊躇いもなく鍵を差し込む。

「えっ、大丈夫なんですか?」

「分かんないけど、大丈夫じゃん?」

なんの根拠を持っての大丈夫なんだろう…
私の心配をよそに、扉はガラっと開けられた。
案の定、図書室に人はいない。

バレて怒られたらどうしようという不安と同じくらい、こっそり抜け出して来た図書室にわくわくしている自分もいた。
さっきと同じく、これも初めて味わう感情だった。

いつもの定位置に着く。
「さっき、俺のこと応援してくれてた?」

一瞬目が合ったのは気のせいじゃなかったんだ。

「はい。人のこと応援したのは初めてです」

「紅葉ちゃんの初めて、もらっちゃった」

「へっ、変な風に言わないでください!」

「変な風って?」
先輩はニヤニヤしている。
先輩のからかいは、嫌な感じがしなかった。

「紅葉ちゃんに借りた本、全部面白かった」

「えっ、全部読んじゃったんですか?」

「もちろん」
先輩は得意気だ。

人に勧めた本を、面白いと言ってもらえるのは嬉しかった。