新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「高橋さん……」
高橋さんは、 何も応えてはくれなかった。 ベッドの上に肘をつき、 両手を組んで顎を乗せたまま少し小首を傾げながらこちらを見ている。 そんな沈黙が続く中、 院内に明良さんを呼び出す放送が流れていた。
程なくして病室の電話が鳴り、 高橋さんの顔を見ると私に手で合図をして電話に出た。
「ああ、 悪い。 今、 内科の……そうだ。 病室にいるんだが……確か、 ミサは子供に付き添っているはずだよな? ああ……そう……ちょっと、 此処まで連れてきてもらえないか?」
エッ……。
高橋さん。 何を言っているの?
明良さんにお願いしてまで、 何故ミサさんをこの病室に?
会いたくない。
もう、 私はミサさんには会えない。
怖い……。
明良さんとの電話が終わった高橋さんを、 睨みつけてしまった。
「高橋さん。 私……お願いです。 もう、 ミサさんには会えないんです。 私は、 ミサさんとの約束を破ったんです。 高橋さんを……うっ……ううっ……ごめんなさい。 私のせいで、 高橋さんを……高橋さんを……人殺しにしてしまうかもしれないんです。 今以上に私は……ミサさんを……哀しませてしまうんです。 だから……」
今からミサさんが此処に来るかと思うと半狂乱になりそうで、 布団をはね除けて起き上がろうとした。
「落ち着け」