新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「横になった方がいい」
何も考えられない。 考えたくない。
言われるままベッドに横になると、 そっと毛布を高橋さんが掛けてくれた。
この優しさも、 温もりも、 もう私の元から時期に離れていってしまう。 そして……この香りも……。
ああ。 高橋さん。
「……ヒクッ……ううっ……」
止めどなく涙が溢れてずっと泣きやまない私を、 高橋さんはそっと右手を握りながら黙って見つめている。
何か……言わなきゃ。 このままでは、 高橋さんが心配しちゃう。
高橋さん。
本当に、貴方が大好きでした。 その澄んだ瞳。 最初は、 何も映していない漆黒の瞳だった。 怖くて、 近寄り難くて……それが、 いつしか優しい瞳になって、 いつも私を見守っていてくれた。 サラサラとした髪も、 綺麗な指も、 何もかもが大好きだった。 お茶目で、 ちょっとエッチで、 たまに変な語録を並べて……。 あんなに苦しいと思った日々が嘘のように、 思い出されるのは楽しい日々だけ。 こんなにも、 高橋さんが愛しいと思ったことに今気づいた。 だからこそ、 高橋さんを苦しめるようなことはしたくない。 哀しませるような事を……してはいけない。
高橋さん……。
「高橋さん……もう……もう、 此処には……来ないでもらえますか?」
言えた……言ってしまった。 もう、 後戻りは出来ない。 でも、 これでいいんだ。
心の中でこれまでの事を思い出しながら、 少しだけ気持ちが落ち着いて言葉を発する事が出来た。
「フッ……」
高橋さんは、 何故か俯きながら一瞬微笑んだ。
「全く同じことを、 言っているな」
「えっ?」
「話してごらん」
エッ……。