新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

私、 何を考えているんだろう。
高橋さんとミサさんの子供の命。 私は、 どうすれば……。
消灯時間になって、 看護師さんが病室の電気を消しに来てくれたが、 話し掛けられても返事をする事が出来なくて、 窓の方を向きながら必死に声を押し殺して泣いていた。

「寂寞の桜」
人の命。
人1人の命の重み。
ベッド脇の引き出しから手帳を取り出し、 何度も書いていた。
この8文字の中に、 どれほどのものが……。
人の心を敬う気持ちも、 命あってのもの。 私が高橋さんと一緒に居たいと願う気持ちは、 何事にも代え難いものだが、 それでもそれと高橋さんとミサさんとの子供の命は、 あまりにも比べる対象にならないぐらい重い。 一生、 高橋さんを思い続ける事は出来る。 けれど、 それも私の命あっての事。 拒絶反応がもし出てしまって、 取り返しのつかない事になったら、 高橋さんは……私は……。
また、 涙が頬を伝う。
高橋さんを失う事を考えると、 寂しいとか辛いとかいう以前に、 ただ哀しくなってしまう。
トントン。
「は、 はい……」
ドアをノックする音が聞こえて、 急いで手帳を引き出しにしまいながら涙を拭ってドアの方を見ると、 高橋さんが立っていた。
「高橋さん……」
「具合は、 どうだ?」
こうやって高橋さんと話せるのも……そう思ったら無意識に下を向いた途端、 涙がシーツに溢れ落ちた。