新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

人の命。 
人の命の重み、 尊さ。
高橋さんが直面していた、 何事にも比べる事の出来ないもの。
自分の血を分けた、 子供の命。
高橋さんの血が流れている、 子供の命。
私には、 やっぱりそんなことは出来ない。
高橋さんの顔を、 寝ながら見つめていた。
「正直に言ってごらん。 何があった?」
高橋さんは、 柔らかな優しい瞳で私を見つめながらそう言った。 けれど、 その辛い胸の内を思うと……自分を押し殺し、 慟哭の中にありながらも穏やかな表情で、 私に接してくれる高橋さんの顔を見ているのが、 とても辛くて心が痛い。
私に悟られないよう、 そんな大切な事を胸の奥に潜めて精一杯接してくれていた。 そんな事とは知らずに、 ただ高橋さんと別れたくなくて、 思いの丈をぶつけてしまっていた。 本当に、 浅はかな考えと行動だった。 高橋さんの、 何を見ていたんだろう。 情けない。
もう、 高橋さんをミサさんに返してあげないと。 2人の大事なお子さんのためにも、 私がその命まで奪うようなことは出来ないし、 したくない。 だって、 こんなにも高橋さんが好きだから。
高橋さんは、 黙って私を見つめている。
でも……きっと私が話さない限り、 このままの状態は続くのだろう。 それでも……。
「高橋さん……」
高橋さんの名前を呼んだだけで、 気持ちが不安定になっていた心は、 堪えていた感情を一気に涙と共に溢れさせた。
そんな私の姿を見て高橋さんが、 そっとハンカチで涙を拭ってくれる。
「落ち着いて。 ゆっくりでいいから」
高橋さん……。 私が高橋さんと一緒に居たいと願うのは、 いけない事なんですよね?
そう、 聞いてみたかった。
ミサさんの子供……ううん。 高橋さんとミサさんの子供の事を考えたら、 私はやっぱり……。