新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

そんな、 簡単に言わないで。 高橋さんと私は、 まだそこまでいっていない。 高橋さんに、 愛しているなんて言われた事はない。 そんな……簡単なものじゃないもの。
「うちの子供に、 拒絶反応が出てからでは遅いの。 だから……だからお願い! 貴博と、 別れて欲しいの」
「そ、 そんな……私……それに、 ご主人様だって」
どうして? どうして……何故、 高橋さんと別れなければいけないの?
「主人は、 納得済みよ。 それに、 貴女にはまだ人生をやり直せる時間がある。 でも、 うちの子には……うちの子には貴博の血を分けた子供が居なければ、 死んでしまうかもしれないのよ? 人1人の命がかかっているの! 貴女は、 それでも……それがわかっていても、 貴博と一緒に居られるの?」
「あ、 あの……まだ拒絶反応が出ると、 決まったわけじゃ……」
「貴女には、 親の気持ちなんてわからないでしょうね。 いつ出るかわからない拒絶反応に、 毎日怯えている母親の気持ちが」
そんな……。
それからミサさんに何を言われても、 何も耳に入って来なかった。
まるで、 犯罪者のよう……。
そして、 ミサさんは 『 よく考えてみて。 人の命がかかっているんだから 』 と言って、 私の前から去っていった。
私は……私は、 どうしたら……。
私が高橋さんと一緒にいる事は、 いけない事なの?
そのために…… 『 人1人の命がかかっているの 』
ミサさんのそのひと言が、 頭から離れない。
だからだ。 だから高橋さんも、 先の事はわからないって……。
そういう事だったの?