新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

そして、 またあまり会話のないまま高橋さんが帰ろうとする気配を感じた。
そうだ!
今、 聞いてみよう。
「あの……」
「ん?」
「この4月の人事異動って……会計は、 その……あるんですか?」
ドキドキして、 少し呼吸が苦しかった。
「……」
「高橋……さん?」
何で、 何も応えてくれないの? それって、 もしかして異動があるって事? 私……ひょっとして、 まさか……。
「そう言えば、 もう明日から4月だな」
「えっ?」
「お前、 入社して何年になるんだ?」
「5年目になります」
そう……高橋さんと知り合ってから、 もう3回目の春が来ていた。
「内示があって、 辞令が交付されて、 1日に実施される」
な、 何?
何を言おうとしているの?
「俺が先週から此処に来ていて、 お前に何も言わないって事は……異動はないんじゃないのか?」
「じゃ、 じゃあ!」
私の言葉を無視して高橋さんは立ち上がると、 椅子をいつものように端に寄せた。
「会計には誰も来ないし、 このままだ」
「高橋さん……」
みるみる、 顔が紅潮していくのがわかった。
「今、 中原も必死にお前のフォローをしている。 補充しないと無理なんじゃないのかと、 上から文句言われたくないそうだ。 会計は今の3人でないと、 彼奴は嫌だとか言っているぞ」
中原さん……。
「それに……。 お前が居なくて、 馬鹿を言う相手がいないから寂しいともな」
「な、 中原さんったらそんな事……」
だけど、 何だかそれがとても温かく感じられて、 そんな馬鹿にされたような言い方をされても、 中原さんのその優しさが凄く身に沁みて嬉しく思えた。