「その子は本当にいい子なんだね。漆葉くんのことをよく見て理解してくれている。それだけ君のことが好きなんだろう。羨ましいよ」
担当医が俺にここに来て一番優しい柔らかい笑顔を見せた。
一人の夜が怖くて、眠れなかった日々も柚音ちゃんのことを考えると何だか心が癒されて安心して前よりは深い睡眠が摂れるようになったんだ。
「本当に大事にしたいんです……」
俺なんかのためにあんなに震えて守ってくれた彼女を俺は大切にしたい。
きっと、怖かったはずなのに。
本当なら俺が彼氏だと堂々と言いたいけど、実際それは難しくて、柚音ちゃんが上埜先輩の彼女という噂を否定できないのがもどかしくて辛い。
「君なら大事にできるよ。これからも無理せず今の仕事を続けなさい」
「ありがとうございます」
担当医にお礼を言って、マスクをつけて、いつもの黒いバケットハットを深くまで被ると診察室を出た。



