《善side》
「最近、症状が良くなってきたね。例のあの子のおかげ?」
「そうかもしれないです」
「それはよかった。このまま改善されるといいね」
久しぶりのオフの日。
俺は月に一回の診察に来ていた。
理由は、ストレスによる睡眠障害。
俺がこの業界に入るきっかけになったのは事務所の社長にスカウトされたことだった。
当時、芸能界なんて微塵も興味がなかった俺は事務所に入っても何もできないまま。
歌も、ダンスも、演技も他の人よりも劣っていて、目立つこともできず、何もできなくて何度もデビューの機会を逃して、その度に悔しい思いをした。
世間から無造作にぶつけられる
“ZENはダンスが下手”
“歌がもうちょっと上手かったらなあ”
なんて意見を見かけてもう誰にも文句を言わせないくらいパーフェクトになろうと決意して、毎日毎日レッスンに明け暮れた。