「昼間は春の陽気だというのに、まだまだ夜は冷えるな」

「そうですね」


着物の上に半纏(はんてん)を着た玻玖と和葉が縁側まで出てくる。


隣同士に座ると、玻玖が和葉の手の上に自分の手を重ねる。

そして、和葉はそっと玻玖の肩に頭を乗せた。


2人の左手の薬指には銀色に輝く結婚指輪。


もうすぐ、結婚して1年がたとうとしていた。


「今日はとても大きな満月だな」


月を眺めながら、玻玖は狐の面を取る。

その玻玖の美しい横顔を、うっとりしたような表情で見つめる和葉。


玻玖から瞳子の話を聞かされたとき、同時にこの狐の面の意味を教えられた。


この狐の面には、2種類の玻玖の呪術が込められている。


1つ目は、炎耐性の呪術。


『輪廻転生ノ術』で再び瞳子の生まれ変わりの和葉と結ばれたからといって、玻玖の中で瞳子の死は今でも癒えない傷となっていた。