「わかんないことあったらわたしを呼ぶのよ」





お母さんの言葉に頷いてはみるけど、ぜんぶ自分で作ってみたいんだ。


隣ではエプロン姿の茉白が、「がんばろうね」と笑っている。




茉白は友チョコだけどね。
乃蒼にあげるんだって。




そう、今日は。
バレンタイン前最後の休日。




全女子が気合を入れる日。
…たぶん?






あたしが作るもの。
もう、ずっと前から決めてた。





ザッハトルテ。
昔お母さんが作ってくれたのを食べてから、ケーキの中でいちばんすきなんだ。



それを、先生にも食べてほしい…。




「ザッハトルテ作ろうなんて、普通思いつかないよ」


「だって、チョコレートケーキの王様、だよ? 強そうじゃん」


「なにそれ。でも確かに、先生のこと勝ち取れそうではあるねぇ」





呑気に笑う茉白。
お母さんに”先生”という単語が聞かれないように、少し声を潜めてくれる。



うん…。
あたしの好きな人が学校の先生だなんて知ったら、お母さんびっくりしちゃうからね。