♡
「わかんないことあったらわたしを呼ぶのよ」
お母さんの言葉に頷いてはみるけど、ぜんぶ自分で作ってみたいんだ。
隣ではエプロン姿の茉白が、「がんばろうね」と笑っている。
茉白は友チョコだけどね。
乃蒼にあげるんだって。
そう、今日は。
バレンタイン前最後の休日。
全女子が気合を入れる日。
…たぶん?
あたしが作るもの。
もう、ずっと前から決めてた。
ザッハトルテ。
昔お母さんが作ってくれたのを食べてから、ケーキの中でいちばんすきなんだ。
それを、先生にも食べてほしい…。
「ザッハトルテ作ろうなんて、普通思いつかないよ」
「だって、チョコレートケーキの王様、だよ? 強そうじゃん」
「なにそれ。でも確かに、先生のこと勝ち取れそうではあるねぇ」
呑気に笑う茉白。
お母さんに”先生”という単語が聞かれないように、少し声を潜めてくれる。
うん…。
あたしの好きな人が学校の先生だなんて知ったら、お母さんびっくりしちゃうからね。