「せんせーっ」
ふと。
遠くのほうから、先生が呼ばれた。
クラスの男子。
…とられた。
あたし、少しムスッとしながら先生を見上げる。
嬉しそうにしちゃって。
おもしろくない…。
「じゃあまた明日な、寄り道せずに帰れよ」
「バイバイ、せんせ!」
「…ばいばい」
元気よく挨拶を返す茉白。
嫌々挨拶するあたし。
こういうところがガキっぽいんだよね…分かってる。
はぁ…。
小さくため息をついたはずなのに、茉白には気づかれてしまった。
「弥生、またヤキモチ妬いてんでしょ」
「…だってぇ」
「教師なんだから仕方ないって」
分かってる。
去年の段階で、嫌というほど思い知らされた。
体育の授業に、球技大会。
文化祭、卒業式。
ぜんぶの行事。
先生はいつだって、”教師”だった。
みんなの遊佐先生。
あたしみたいなただの一生徒が独り占めできるわけない。
…わかってるんだけどさぁ。



