「いるんだろ、出てこいよ」
声をかけられた。
…バレてたんだね。
あたしは大人しくドアの影から顔を出して、教官室に一歩踏み入れた。
元気のないあたし。
一部始終、聞いちゃったからね。
「たまたま聞こえちゃったんだよな?」
「…うん」
「よし。百瀬が盗み聞きするような子じゃないって、信じてたからよかった」
でも…。
中で話してるのが聞こえたのに、その場から動かなかった。
盗み聞きと一緒だよ?
先生、怒らないの…?
「…先生、また泣かせてた」
あたしが言うと、先生は一瞬目を開いたあと、困ったように笑った。
「泣かせたなぁ。お前も、あの日のこと覚えてるんだ」
「…うん」
忘れるわけない。
たとえ何年経っても。
先生。
「中途半端に優しくするから、期待して泣いちゃうんだよ、みんな」



