「私が宮殿にいる間、一度も見る機会がありませんでした」

 アレクサンドは苦笑する。

「宮殿の親木はディートリヒが傷をつけてしまったんだ、それがきっかけか、光を失ってな。この木は、俺が祖父にもらった苗木で、タウンハウスを建てたときに移植したんだ」

 なるほどと思う。

 今の宮殿は精霊ではなく、悪霊の棲み処になってしまった。

 すべてディートリヒのせいで。

 でもだからといって帝国の善が消えたわけじゃない。

 その証拠にトネリコはこんなに輝いている。

「いつかここで見えるといいですね。精霊を」

 精霊は大地、水、風、火と。それぞれ美しい色をまとって現れるという。

 どれほど美しいか、ルルは想像するだけでうっとりと目を細めた。

「早く見てみたいです」

 必ず見えるという確信が沸々と湧いてくる。

 アレクサンドを振り返ると、彼は微笑んでルルの肩を抱いた。

「そうだな。ルルが見たいなら出てきてくれるさ。きっと」