この店の奥は二人の家になっていてキッチンは勿論、リビングと書斎と寝室がある。


縦に長い屋敷なのだ。


なので、一番奥にある寝室にいくまでに全ての部屋を通っていかなければならない。実に面倒な作りである。



「何がいいのー?」



「ローズティー」



そして会話は終了する。


キッチンからはチェスが紅茶を作る、時たま陶器がぶつけられるような音が聞こえるくらいで、他は何も聞こえなくなった。


ガタンゴトン。


天井のその奥から電車が走る音が聞こえる。


パラ、と本のページを捲る音が聞こえてきて、また静かになる。毎日はそれのくり返し。


変わることといえば紅茶の名前くらいだろうか。



「ハイ」



「ん」



言って、チェスが運んできた紅茶とお菓子の載せられたトレイを受け取り、リオンは紅茶を口にする。


一つ頷いて、返す。


静かなひととき、いつもの風景。


リオンはまた、眼鏡をクイ、とあげて本へと目を落とした。


天井の奥から、電車の進む音が聞こえて、調度品たちが震える。


聞きなれた音。


微かに混じる紙の音以外、聞こえなくなった頃。









カラン


コロン。





店のドアが開いた。

ベルの音が静かな店内に響く。







END

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『幼き人形』