だったらさ、とチェスが提案する。
今までの移動にチェスは意見してこなかったので、それは珍しい提案だった。
しかもそれは、自分が生まれ育ったあの街がどうなったのか見に行きたい、というもの。
リオンは暫くその提案に何を返すわけでもなく、沈黙し、チェスを眺めた。
理解しがたい、と言いたげに。
リオンは自分が生まれ育った町に戻りたいと思ったことが一度もない。
44人の人間を殺した殺人鬼の言い伝えは、形が膨れ上がり、削れたりしながら今も静かに語り継がれているだろう。
勿論、チェスの場合も在り得る。
「……確かイギリスだったか」
「うん。もう家は無いだろうけど……遠めでちょっと見るだけでいいからさ!」
ティーカップがソーサーの上に置かれ、途端に煙のように溶け、リオンのバッグの隙間に入り込む。
「100年前とはいえ、用心だけはしろよ。お前は俺と違って人間に見えるんだからな」
それは、100年間逃亡し続けた殺人犯への言葉。
時効が過ぎたとはいえ、当時の事件を、エルヴィスと言う少年を知る人物がチェスの顔を見たら、大騒ぎになる。
はーい、と返事を返しながらチェスは宝箱を抱えて、靴を履く。
カラン、
コロン。
最後のベルが鳴る。
物悲しいそのベルの別れを背中で聞きながら、二人は振り返らずに歩き始めた。
後に残ったのは、ただのコンクリートの壁。
その上を、電車は何食わぬ顔で走り続ける。何も知らぬ、人間たちを乗せて。
どこかの高架下の、出来事。
END


