「ヒッ!」
声をあげて、仰け反る。
反射的にその声と対峙する様に、振り返るとそこには黒尽くめのあの男が眼鏡の奥からその鋭い瞳を此方へと向けて、静かに見据えていた。
バレた…
茜は、そう思った。
そして、両親が謝る所や、担任の先生達からの叱責、そして世間の白い目などを思い描いて、泣きそうになった。
御免なさい、と謝ろうとした、その時。
「有難う御座いました」
そういって、男は自らドアを開けると茜を外へと促した。
カランコロン、と洒落たドアベルの音が響く。
一瞬の間を置いて状況を理解できずに呆けたままの茜はその行為に、万引きがバレていないのだと、理解した。
理解した後は、逃げるしかない。
茜は小さく会釈を返して、出て行った。
暫く…店の前は平然を装って歩いていたが、店の窓から自分が見えなくなると途端に走り出した。
走って走って、駅までの道のりを走っていった。
いつもの制服ではなく、私服でよかった、そう思いながら。
そして、もう二度とこの店に近づかないことを固く誓いながら。


