抜けないと知られたら、「200万円です」と、さらりと言ってしまいそうだ。
そんなお金は、茜の家にはないし、親に工面させるわけにも行かない。
茜の心臓は、ドク、ドク、と血液と酸素を身体中に送る。
そのテンポが早い所為か、どこか頭の奥が霞掛かるような、ぼやけるような、ズンとした重みを、感じた。
左手を、袖で何とか隠して一歩踏み出す。
ギ、
運動靴を履いた足で、床の古みが、小さく鳴る。
そんな小さな音にさえ、体が強張る。
呼吸が浅く、早くなる。
大丈夫、こんな小さい物…見つかるはずない。
ゆっくり歩いて、店員が話しかけてこないように。
しかし、怪しまれないように静かに出入り口へと向かい、ドアの取っ手へと右手を伸ばそうとした、その時。
「お客様」
その低い声は、いつの間にか背後にピッタリと寄り添っていた。


