「ここにあるものは全て、料金は頂きません。ただ、大切にしてあげてください。彼らは先代に愛され慈しまれてきたもの達ばかりなので、とても寂しがっているのです」
開いた口が塞がらないというのは正にこのことだ。
こんな高価そうな物が、無料!?
怪しすぎる、と彼はその人形と男を交互に見比べた。
「……お気に召しませんか?」
「いや、…流石にタダって言うのは……」
「…必要ありません。どうしてもお支払いしたいというのならば、お好きな額を…」
とはいえ、酒を飲んできていた彼の財布にはもう声を張って言えるほどの額は残っていない。
ここで数万円など払えれば格好はついたが、数千円では逆に少し格好がつかない。
「あ、いえ…ではお言葉に甘えて…」
彼は恐る恐る手を伸ばして、人形を受け取った。
その時、初めて黒尽くめの男はその無表情に小さく笑顔を浮かべたのだった。
「有難う御座いました」
*


