「あれ?モモちゃん、どうしたの?」
「……匠刀、いますか?」
「あ~、彼氏の迎え?」
「……はい」

虎太くんが『モモちゃん』と呼ぶから、すっかり空手部の部員にも『モモちゃん』が定着している。
そして、匠刀の彼女ということも、すっかり周知の事実。

「津田~、彼女が迎えに来てんぞ~」

2年生の先輩が部室の中にいる匠刀を呼んでくれた。
すると、物凄い勢いで中から匠刀が現れた。

「桃子っ」
「来ちゃった」
「少しだけ待ってて」
「……うん、急がなくていいからね」

上半身裸の匠刀が、慌てて服を着に戻る。

12月の寒空の下。
服も着ずに出て来なくていいのに。

2、3年生たちが先に部室から出て来て、その中に虎太くんの姿もあった。

内部進学で白修館大学に進学する人は、部活がなくなると体がなまるために部活動をそのまま続けている。
これは、白修館ならではらしい。

「ごめんっ、寒かっただろ」
「大丈夫、カイロ貼って来たから」

まともに会話したのは5日ぶり。
メールも電話も無視して、彼を完全に避けてたのに。
私を見る匠刀の目は、何一つ変わってなかった。

「兄貴、彼女と急にデートになったらしくて、チャリの鍵預かってるから乗せてくよ」
「……ありがと」

ごめんね、匠刀。
ホントはね、それ仕組んだの。

匠刀と一緒にいられるように、虎太くんが気を遣って考えてくれたの。

騙すみたいで、ちょっとだけ胸が痛んだ。

自転車置き場へと向かいながら、隣りを歩く匠刀を見上げる。

「ん?」
「……無視して、ごめんね」
「いいよ、もう」

苦笑した彼は、手袋をしている私の手をぎゅっと掴んだ。