「桃子」
「え、何でいるの?」
「終わって家に行ったらまだ病院だって聞いたから」
「君が彼氏くんかな?」
「……はい」
「初めまして、主治医の財前です。桃子ちゃんから君のことをさっき聞いてたところなの」
「え、俺の?」
「今日、試合だったんでしょ?」
「あぁはい、練習試合です。桃子の具合大丈夫なんですか?」
「えぇ、大丈夫よ。心配したわよね」
「……よかったぁ」

先生もビックリするほど大きな安堵の溜息を吐く匠刀。
点滴が刺さる手がそっと握られる。

「お母さんも戻って来たことだから、私は医局に戻るわね。桃子ちゃん、次の検診の時に」
「はい」
「お大事にね」
「先生、ありがとうございました」
「おばさん、俺も」
「もう帰るの?」
「桃子の顔を見れたんで」
「……そう?」
「桃子、また夜に電話する」
「ん」

匠刀の手をぎゅっと握り返すと、頭を一撫でされた。

そして、ジョギングの時のように颯爽とその場を後にする。

カーテンの隙間から匠刀の後ろ姿を見つめていると。
医局へと戻る財前先生に声をかけたようで、入口ドア付近で2人で話しているのが見える。

小さく何度か頷いた先生が、チラッとこちらに一瞬視線を寄こした。
そして、匠刀と先生は救急外来室の外へと歩いて行った。

きっと匠刀のことだから、安心出来ずに質問でもしてるのだろう。
それか、お礼でも言ってるのか。

本当に私のことになると、周りが極端に見えなくなるんだから。

「桃子、点滴が終わったら帰っていいって」
「うん」