『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで


「モモちゃん、匠刀くん、もう大丈夫みたいだから」
「………は…ぃ」

3分間ほど倒れていた匠刀が、ゆっくりと立ち上がった。
雫さんが言ってたように、脳震盪のようだ。

少しインターバルをおいて、再び試合が再開したが、すぐに試合終了となった。

「匠刀くん、勝ったよ」
「……ぃ」

頑張って酸素を吸ってるつもりなのに、全然上手く吸えない。

雫さんが何度も脈を測ってくれて、いっぱい声をかけてくれるけれど。
その声に答えるのもできないほどだ。

「虎太くんっ!」

空手道場の2階から観覧しているのだけど、そこから下にいる虎太くんに雫さんが声をかけた。
その声に反応するように匠刀の視線がこちらに向けられた。

「桃子っ!」

試合直後だというのに。
さっき、倒れたばかりだというのに。
2階のギャラリー部分に駆けて来る匠刀が視界に映る。

虎太くんが監督に説明しているようで、1階から物凄い視線を感じる。
白修館の空手部の子たちだけでなく、K大付属高校の部員の視線も蹲る桃子に向けられている。

階段を駆け上がって来た匠刀は、私の鞄からフェイスタオルを取り出して、それを頭から被せた。

「桃子、痛むか?」
「……ん」
「監督っ!控室借りますっ!!……じっとしてろ」

ふわっとした浮遊感と物凄い速さの鼓動が伝わって来る。
匠刀の心臓がいつになく早い。

「雫さん、すみません。桃子の荷物持って来て下さいっ」
「うん!」

空手道場の1階にある来賓用の控え室。
和室になっていて、座布団の上に横たわる。

そして、慣れた手つきで私のスマホから母親に連絡を入れる匠刀。
通話を切った彼が、物凄く切なそうな顔で頬を撫でる。

「心配かけて、ごめんな」

それはこっちのセリフだよ。