『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで


合図が出され、深く一礼。
試合開始だ。
すぐさま攻撃態勢をつくり、ステップを踏み始めた。

匠刀が小刻みに跳ねるのと同じように、痛いくらい心臓がドクドクしてる。
無意識に胸にぎゅっと手を当て、視界の先の匠刀へエールを送る。

『頑張って』

「落ち着いて~」

雫さんは冷静だ。
部員達と同じように、声掛けしてる。

「っぅおおあああーっっいッ!!」
「よしっ!」
「ッ?!」
「モモちゃん、中段突きが決まって、1p取ったよ」
「ホントですか?」
「うん」

中段突きとは、両足を前後に開いた状態で構え、低い姿勢から腹部へと美しい軌道を描く突きの技。
あまりの速さに目が追い付かない。

「始めっ」

主審の合図で再び攻撃態勢に入った匠刀。
相手のステップのリズムを崩すように、蹴るふりのようなものを何度か繰り出している。

「あっ……よーしッ!!」

雫さんの声に肩がビクッと反応する。
上段蹴りを仕掛けて来た相手を低い姿勢で体を回転させて上手くかわした。

「今のが、ダッキングっていうかわし技だよ」
「ダッキング…」
「匠刀くんのダッキング、早くていいね。相手も次の技が出せずにいる」
「……そうなんですね」

経験者だから、雫さんの説明だと安心できる。
今のところ、匠刀が優勢なんじゃないかと思えて。

「あっ……」

どうしたんだろう。
組み合った状態で、審判が止めた。

「今のは掴みだね」
「それも決め技なんですか?」
「ううん、反則技。柔道と違って、掴むのはNGなの」

それって匠刀が?
それとも相手が?

「向こうに注意が入った」
「はぁ…」
「あっ、まただ」

残り時間が1分を切ってるからだと思う。
相手が焦り始めて、再び掴み行為をしたっぽい。