午前9時少し前。

「桃子、具合が悪くなったらすぐに連絡するのよ?」
「うん」
「塾の先生にも話してあるから、気分が悪くなったら休ませて貰うんだぞ」
「分かってるって」

今日はお昼を挟んでの授業コースにしていて、帰宅するのは夕方以降。
本当は毎日通えるし、半日だけのコースもある。

体の状態を踏まえて、親と熟慮した結果だ。

「いってきます」
「気を付けてね」
「いってらっしゃい」

鍼灸院の施術開始前に、両親が玄関で見送りをしてくれた。

『今、家を出たとこ』
『塾は17時半まで』
『部活、頑張ってね』

駅へと向かう道のりで、匠刀に連絡を入れる。

私の体を心配する彼は、彼氏になった途端『束縛』をし始めた。

今まで束縛したくても、私が嫌がると思って我慢していたという。
今までだってお節介すぎるくらい心配性だった彼が、数十倍くらいにパワーアップした。

自分だって空手の稽古があるんだし、いつ勉強してるのか知らないけど、私より成績がいいくらいだから。
1日に24時間しかないのに、一体どうやってやり繰りしてるのか、不思議だ。

だけど、匠刀とこんな風になるとは思いもしなかった。

4年もの間、虎太くんだけをずっと見続けて来て、自分の中ではすごく長い間彼を好きだと思ってたけど。
匠刀が私をずっと一途に想い続けて来た時間はそれよりも遥かに長くて。
この間聞いたら、今年で11年目だという。

それを聞いたら、束縛くらいさせてあげてもいいかな?だなんて思ってしまったのだ。