新学期になり、登校すると、当然桃子の姿は無くて。
『モモちゃん、転校したんだって』という会話が耳に入って来た。

本当に現実だったんだと、改めて思い知らされた。

年末年始ボケで、全てが夢だったんじゃないかと、心の中で思い続けてたのに。

『津田くんっ、モモが…、モモが……』

泣きじゃくった顔で駆け寄って来た星川を見て、『あぁ、こいつも知らされてなかったのか』とホッとした自分に辟易した。

俺だけ知らされてなかったら、たぶん気が狂い倒してたと思う。
いや、知らされてても壊れてたか。

桃子の部屋にあったスマホは、契約解除されていて、既に充電も切れていた。
それは、完全に俺との連絡ツールを破棄したことを意味していて。

あの手紙と一緒に置かれていたことを、未だに受け止めきれずにいる。



『津田が浮気したから、モモちゃん転校したんだよ』
『俺なら、あんな可愛い彼女いんのに、浮気なんてしないけどな』

言いたい放題言いやがって。

俺が浮気?
するわけねーだろ。
10年も一途に想い続けて、兄貴を好きだと分かっても諦められなくて。
俺の24時間365日が、あいつのためにあったようなもんなのに。

例え浮気されたって、惚れ直させる自信があったっつーのっ。

「匠刀、部活出ねーの?」
「……もうどうでもいい」

親友の晃司が声をかけてくれるけど。
空手をしてたのは、桃子のためだった。
スポーツ推薦で入学したわけじゃないから、部活をしなくたって別にどうってことない。

桃子がいない学校に通うことさえ、苦痛だってのに。
空手なんて、してらんねぇ。