4月下旬、とある日の放課後。
すっかり葉桜になってしまったソメイヨシノを教室の窓から眺めていると、親友の星川(ほしかわ) 素子(もとこ)の手がポンと肩に乗る。

「モモ、帰るね?」
「うん。もとちゃん、また明日」
「仲村さん、そろそろ行く?」
「……ん」

親友のもとちゃんを見送る私、仲村(なかむら) 桃子(とうこ)、高校1年。
周りの女の子たちからは、『とうこ』ではなく、『モモ(ちゃん)』と呼ばれている。

入学式の翌日に、くじ引きで見事にクラス委員を引き当てた桃子。
もう一人のクラス委員の宮崎(みやざき) 賢人(けんと)(通称:みやけん)と、委員会が開かれる3年A組へと向かう。


桃子が通う高校(白修館高校)は文武両道の有名私立高校で、北棟はスポーツ特進科、南棟には偏差値73と言われる普通科がある。
校舎はアルファベットの『H』のような形をしていて、それぞれの塔に学食や特別教室などが完備されている、俗にいうセレブ校だ。

桃子が在籍しているのは南棟の普通科。
その普通科は、文系、理系、総合特進の3つのコースに分かれていて、入学と同時に大学受験対策がスタートするほど、都内でもトップクラスの進学校だ。

「仲村さんって、身長どれくらい?」
「……」
「あ、ごめん」
「……150㎝」
「ちっちゃ…」
「……」
「あ、マジでごめんっ」

デリカシーのない質問にムッとする桃子。
こういう質問をされるのには慣れているが、やはり何度聞いても気分のいいものじゃない。

分かってる。
見た目も性格も小学生並みだということくらい。
でも、仕方ないじゃない。
人間、そんなに簡単には変われないんだから。