王宮に着いて早々、皆が別行動をすると思っていた。
 叔父はあちこち挨拶回りをしているし、叔母は婦人達と談笑、リーナは婚約者がいるのにも関わらず、意中の男がいるようで追いかけまわしているようだ。
 誰だったかな……ミハエル……いや、ミ…………なんだったか?
 名前は一度聞いたはずだが、薄っすらとしか出てこない。
 リーナはロマーニオに自分を売り込むよう懇願していたが、家格が上過ぎるし、婚約者がいる身でそれは難しいと断られてからは自分でアピールする作戦を選んだらしい。
 エスティラとしては派手に失恋することを願うのみ。
 人から婚約者を奪っておいて他の男に熱を上げている状況は癪に障る。
 そんなことを考えていると国王と王妃が手を取り合い、会場に入場する。
 中央を優雅に歩き、玉座に座った二人は若い。
 今の若き王が玉座についたのは四年前。
 侯爵家の令嬢、ライラ・リストンを王妃に迎え、翌年王子が誕生した。
「まぁ、聖獣がいるわ」
「聖獣が現れる宴だなって。素敵なことが起こりそうだわ」
 聞こえてきた声に天井を見上げると小さな黒い竜と鷲が飛んでいた。
 聖獣は幸運の象徴とされ、見かければ幸運が訪れるとされている。
 しかし、エスティラはその説には懐疑的だ。
『はぁ~。人間ってバカだよな』
『そう言うな。人間にとっては相手の顔色を見ながら飯を食い、腹の内を探りながら手を取り合って踊るこの宴がささやかな人生の楽しみなんだろう。我ら聖獣には理解できんが』
『おい、見ろよ。俺達を見て幸運と加護を欲しがってるぞ。その羽でもくれてやれば?』
『貴様、儂の羽をなんだと思ってるんだ。人間なんぞにそうやすやすとくれてやれるものじゃない』
『糞でも喜ぶのか試してみたいな』
『なら貴様が出せ。儂はこのような所で排泄はせん』
 これが聖獣達の会話だ。
 人間を舐めてるわね。
 こんな会話をする聖獣に幸運を期待する人間の愚かなことよ。
 聖獣達は人間を決して襲わないが、懐きもしない。
 懐かない理由も人間を見下しているから。
 うちの周りにいる動物達は性格の良い子ばかりなんだなと改めて思う。
 エスティラにとっては動物も聖獣も人間も同じように言葉が聞こえる。
 人間と大して違わないわね。
 こんな低俗な会話を聞いてしまえば聖獣に対する信仰心も失せる。
 特別大きな期待はできない。
 ちらりと鷲がこちらを見た気がするがおそらく気のせいだ。
「皆、よく来てくれた」
 そう言って始まったのは若き国王ドナルドの挨拶である。