「嘘……何これ……」

住んでいるマンションの郵便ポストに入っていた書類を見て、最上香奈(もがみかな)は震えた声で呟く。その顔は徐々に真っ青に染まっていき、力を失った体はその場に崩れ落ちていく。

香奈に送られてきた書類は、とある弁護士事務所からだった。その内容は香奈の不倫に対する慰謝料請求のものである。

「あの人、結婚していたの!?」

二十三歳、都内の会社で働いている香奈には七歳年上の恋人がいる。恋人である翔吾(しょうご)は取引会社の社員であり、会社同士の交流会で知り合った。

『あなたに一目惚れしました。付き合ってください』

出会ってすぐにそう告白をされ、香奈は戸惑ったものの、翔吾は結婚はしていないと話しており、その指に指輪はなかった。三ヶ月ほど二人きりで食事などを重ね、交際に至ったのだが、翔吾は大きな嘘を吐いていたのである。

「どういうこと!?結婚はしていないって、私と結婚したいって言ってたじゃない!!」