「……で、あんたはなんでさあ」
お怒りモードの涼村くんにただ縮こまる私。
私の目の前にひらひら見えるのは、数学のテストである。
「……何この点数」
「25点です」
「点数を聞いてんじゃねえよ。なんでこんな点数とったか聞いてんだよ」
鋭くなった目つきに、ただただ怯えるあたし。
ひぃいいぃ。
こわいよぉぉぉ。
「そ、それはですね、英語と古典に必死だったというかなんというか」
言い訳がましくいうと、ふうん? と涼村くんが眉を上げる。
「そんで数学この有様? 要領って言葉知らないの?」
担任の言葉がまさか当たっているとは、あたしも泣きたい気分です。
涼村くんにひっでえ点数なんてはき捨てられてさらに泣きたい気分です。
「で、これのせいで数学の補習が入って、今日の放課後は無理になったと?」
「……すみません」
そうなのです。
今日の放課後は本当はどこかへ行く予定でした。
それがまさかの先生との補習デートになるだなんて。
「……はあ。ま、しゃーないな」
ため息をつく涼村くん。
ああ、すっかり呆れていらっしゃる。
「待っといてやるから、高速で終わらしてこい」
「……はい、てえ?」
「ん?」
「待っててくれるの?」
きょとんと問いかけると、ぱしんと頭を叩かれる。
なぜ叩いたの!?
「俺も軽く教えてやるから。追試でわかんなかったとこくらいあるだろうし」
「……あ、ありがとう!」
神様だ。
だって絶対先生の説明だけじゃわかんないもん!!
「さっさといってこい」
「うん!!」
嬉しくて力強くうなずき、カバンを手に取った。
「卯月」
行こうとしたあたしを引きとめ、涼村くんは切れ長の瞳を細めて、口元を緩めた。
「がんばれよ」
とくん
なんだかんだいって彼は優しい。
「うん!」
えへへ。と笑顔をこぼれさせて、あたしはそのまま補習の教室へ向かったのだった。