悲しみとか、憎しみとか、いろいろな感情が混ざりああって今の気持ちを表すことも難しい。


「俺だって……今までずっと真面目にやってきた。それが崩れるのが……嫌だったんだ」


豊は切れ切れの声で呟く。
そう、豊は真面目な生徒だった。

生活態度も成績も悪くない。
友だちだってたくさんいる。


「じゃあどうして万引なんてしたの?」


奈穂が質問したとき、豊の体がパッと消えるように灰になった。
そこにいたはずの豊の姿は消えて、珠美のスカートのかけらだけが取り残される。


「外に出たんだ!」


珠美が叫んだのとほぼ同時にチョークがひとりでに動き出した。


『望月豊は外へ出ました』


この文字が本当かどうかわからない。
奈穂は視線を黒板の上にある時計へやった。