ご飯はなかなか喉を通って行かなかった。
無理やり飲み込んでもなんの味もしない。

せっかくお母さんが作ってくれたのに。
そう思うと涙が出そうになった。

千秋のお母さんだってきっと同じ気持ちで毎日ご飯を作っていたんだろう。
千秋の喜ぶ顔が見たくて、家族団らんを楽しみたくて。
それを奪ったのだって、自分たちだ。

堪えきれずに涙が頬をこぼれ落ちた。
それはテーブルに落ちて丸くなる。


「奈穂、どうしたんだ?」


父親が気がついて心配そうに声をかけてきたけれど、奈穂は返事ができなかった。
両手で顔を覆い、子供みたいにしゃくりあげて涙を流す。

千秋にだって大切な人はいた。
千秋を大切に思っている人だって、きっと沢山いる。
それなのに、その人たちの気持ちまで踏みにじってしまったのだ。