こっ……こんな状態で、込み入った説明は無理かもしれない。私が身じろぎするたびに、ギャビンが動きたいのを我慢しているのを感じる。

「待ってください。トリスタンと、会ってからでないと……」

「トリスタン……? まさか、君が今付き合っている恋人の名前か?」

 若干険のある声音になったギャビンに、私はふるふると首を振った。

「まさか! 性別は雄かもしれませんが、黒うさぎのトリスタンです。とにかく、彼に会ってからでないと、説明出来ません!」

「黒うさぎ……? ああ……僕の宮にある薔薇園には、黒うさぎが住みついているという話があるね」

 ギャビンだって『秘密の花園』があるここに住んでいるのだから、黒うさぎのトリスタンの話は聞いたことがあるようだった。

「ええ。その黒うさぎです。とにかく、その彼に会うまでは少し待って欲しいです」

「そうか……君がそう言うのなら、僕も少し我慢することにする。だが……僕は幼い頃から、婚約者の……君だけが好きだったんだ。それだけは、絶対に誤解しないで欲しい」