扉の向こう側に集中していた私は、背後から聞こえた声に、私は信じられない思いだった。一難去ってまた一難。

「ギャビン……」

 なんでここに居るのと続けて言いかけて、私は言葉を片手で口を覆って止めた。

 ここはギャビンが住んでいる宮で、そこへトリスタンに会う目的でやって来たのは私なんだった。

「ずっと、会いたかった。レイラ。君に謝りたくて。今日の朝、君に急ぎで手紙を送ったんだけど、ここに来たということは読んでくれたの?」

 私を見る切なげな眼差しも、本来であればクロエに向けられるべきものだ。私はもう既に隠しヒーローと結ばれている彼女の代わり。

 そうでしかない役割のはずなのに、胸の辺りがズキンとひどく傷んだ。

 朝、ギャビンが私へ送ったという手紙は、クロエへの気持ちが私にすり替わってしまったからなんだろう。

 きっと、彼は大きな勘違いをしている。私のことなんて本当は好きではないのに、好きになっていると。

「……謝ることなんて、ありません。ギャビン殿下が私に謝る必要なんて、何もないんです。あの、ごめんなさい。ノックもなく入ってきてしまって……どうか、お許しください」