一人で家に帰る途中に、クロエの兄に「いつも我が儘な妹が迷惑を掛けて、本当に申し訳ない。良かったら、家に美味しいケーキがあるから食べて欲しい」と、呼び止められたのだ。

 遠慮はしたものの、美少女で有名なクロエの五人のお兄さんたちは当たり前のように美男揃い。私は照れ笑いをして、クロエの家でお兄さんがケーキを持って来るのを待っていた。

 背中から腹部に衝撃を感じたのは、その時だ。

 驚いて私が振り向いた時の、見知らぬ女の子の一言が忘れられない。「え! 別人じゃない!」と言って、人違いで私をナイフで刺してしまったらしい彼女は逃げていった。

 違和感のあるお腹を触り、手についた多量の血を見て「これは駄目だ」と自分でも思った。遅れて痛みを感じて、足から崩れ落ち気が遠くなる意識の中で、聞き覚えのある高い悲鳴が聞こえていた。クロエだ。

 そう。とても簡単な推理だ。あの子と私の背格好はよく似ていて、同じ制服を着ている。

 さっき刺して逃げていった彼女は多分私の幼馴染に彼氏を取られたのか、そうだと勘違いしたのか知らないけど、思い詰めて何かで恨んでいた。