今更洞窟へ戻ることもできないし、この調子だと村までたどり着くとができるかどうかも怪しい。
どこかで休むことができればいいけれど、都合よくそんな場所が出てくるはずもなかった。

とにかく足を休めずに下山を続ける他ない。
足はすでにパンパンで、あちこちに擦り傷や打ち身ができている。

水筒に入れてきた水もそろそろ底をつきそうだ。
せめてこの水がなくなってしまう前に村へたどり着かないと。

ハナは一瞬獣に襲われたときのことを思い出して青ざめた。
夜になってアレが出てくると、今度はどうなってしまうかわからない。

光鬼は、今はもういないのだから。
不安と恐怖と寂しさから逃れるためにはひたすら下山するしかない。

ハナの足は自然と早くなっていた。
足元は腐葉土がたまって湿気で滑りやすく、何度もこけそうになった。


「嘘でしょ……」


目の前に崖が出現したのはそれから10分ほど歩いた頃のことだった。
こんなところにも崖があるなんて。

これを迂回していたら、確実に夜になってしまう!
火もなく、暖を取ることも食事を取ることもできない。

ハナは思わずその場に座り込んでしまった。
自分は1人で村へ帰ることもできないのだ。