鬼の生贄になったはずが、溺愛されています

「違う。そうじゃない」


光鬼は握りしめる手に力を込めた。


「俺は鬼で、ハナは人間だ。どうしてもそれは変えられない」

「だからなに!? 私、ここに来てとても幸せなのに!」


最初はもちろんこわかった。
山には怖い鬼がいると聞いていたし、光鬼は慎重2メートルもある。

力だって強いし、殺そうと思えばハナなどいともたやすく殺してしまうはずだ。
だけどそうはならなかった。

光鬼はハナのために食事を用意して、ハナと一緒に寝起きをする。
それこそ、村人たちとなにもかわらない。

村人たち以上にハナのことを愛してくれて、心配もしてくれる。
今のハナにはそれがわかっていた。

だから光鬼から突き放されたハナは言いようのない悲しみを感じていた。


「その幸せはきっと長くは続かない。俺たちは全く違う種族なんだ」

「そんなのわかってる! でも……!」


自分の初めてまで捧げた男。
優しく、そして特別だと言ってくれた男。

ハナにとって光鬼はすでに特別な存在になっていた。
今更村に帰るなんてとても考えられることではない。