鬼の生贄になったはずが、溺愛されています

相手が鬼だろうが、光鬼はとても優しい心を持ていることをハナはすでに知っていた。
だから、余計に離れがたいのだ。


「光鬼! 光鬼!」


おかしい。
予定ではすでに川についていてもおかしくないのに、一向に川のせせらぎが聞こえてこない。

洞窟を出てきたときには2メートル先まで見渡せていたけれど、今は霧も出てきて1メートル先でも薄暗い。
洞窟へ戻ろうとしても、すでに道がわからなくなってしまっていた。


「光鬼! どこにいるの?」


迎えに出てきたはずなのに迷子になってしまうなんて……。
自分の不甲斐なさと不安でまた涙が溢れ出しそうになる。

いくら呼んでも光鬼からの返事はない。
自分は今どこにいるのか、川とは見当違いな場所にいるのではないか。

それでなくてもここは山の中だ。
どんな危険が潜んでいるかもわからに。

恐怖心から歩みが遅くなる。