鬼の生贄になったはずが、溺愛されています

こんなになっても戻ってこないなんてやっぱりおかしい。
もしかして私捨てられたんじゃ……?

スッと血の気が引いていって貧血を起こしてしまいそうな感覚があった。
このままじゃダメだ。

待ち続けているだけではダメだ。
ハナは決心したように洞窟から一歩踏み出した。

汚れた着物をだけを身にまとい、川のある方角へと歩きだす。
山道には随分なれてきたと思っていたけれど、こうして暗くなってから歩くのでは随分と勝手が違うことに気がついた。

だけど今更引き返すことはできない。
草履の裏にはゴツゴツとした石が突き刺さって容赦ない痛みが体に駆け抜ける。

山に軍勢している草木の中には肌に触れれば切れてしまうものも多くあり、鋭利な刃物のようにハナを攻撃してきた。
それでもハナは足を緩めることはしなかった。

自分の居場所を守るためにも光鬼を見つけて連れ戻さないといけない。
両親が死んだときの喪失感を思い出すとやるせない気持ちになる。

世界でひとりぼっちになってしまったような孤独。
そんな気持ちになるのは、もう嫌だった。