鬼の生贄になったはずが、溺愛されています

できれば新鮮なものを用意したいけれど、ひとりで川へ行って取ってくると、どれだけ時間がかかるかわからない。
仕方ないから、1度干した切り身をそのまま食べることにした。

村にいたときよりも少し質素に感じられうる食事だけれど、一応は準備ができた。
落ち着かない気持ちで光鬼が起き出すのを待つ。


「いい匂いだな」


薄目を開けた光鬼が立ち上る湯気を見て言った。


「大したものは作れなかったけど……」

「いや、十分だ」


起きてきた光鬼はハナの隣に座り微笑んだ。
欠けた茶碗に入れた白湯を一口飲んで大きく息を吐き出す。


「うまいな。人が作ったものを食べるのは久しぶりだ」


目を閉じて味わうように白湯を飲む光鬼にハナの心臓はドキドキしはじめる。
ただの白湯をこれほど美味しそうに飲んでくれた人は今までいなかった。

ずっと山の暮らしてきた光鬼は、もしかしたら孤独だったのかもしれない。


「ハナには料理を教える必要はなさそうだな。十分美味しいから」


山菜のおひたしを口に運んで光鬼は言う。
その優しさに胸の奥が熱くなる気がした。